弁護士望月浩一郎 個人Webサイト

◇軽度外傷性脳損傷の患者救済を

 交通事故、労災事故、スポーツ外傷、転倒・転落事故などの頭部外傷で、脳損傷を生じる場合があります。
 「脳に加速度的衝撃が回転性に加わった時に起こる脳全体の(びまん性)実質損傷」については、臨床的に「広汎性脳損傷」、あるいは、病理学的概念である「びまん性軸索損傷」と呼ばれることもあります。

 受傷直後の意識喪失、外傷後健忘、グラスゴー昏睡尺度等の評価から外傷が軽度と評価される場合は、軽度外傷性脳損傷と分類されますが、脳損傷に伴う障害が重度となる場合があります。
 しかも、このような軽度外傷性脳損傷の多くは、脳損傷がMRIやCTなどの神経イメージング画像法で確認できないため、障害を訴えても、脳損傷を確認できないとして、脳損傷による障害と評価されず、放置されている状況があります。

 軽度外傷性脳損傷の患者は、脳損傷に対して的確な治療を受けられないという点で、権利が侵害されているだけでなく、障害に応じた適正な扱いを受けられない(損害賠償額、後遺障害等級認定)という二重の被害を受けています。

 軽度外傷性脳損傷に取り組んでいる石橋徹医師と共に軽度外傷性脳損傷が社会的に認知され、適正な扱いを受けられるように取り組んでいます。

 石橋徹医師の要請で、2011年4月下旬からは、中堅・若手弁護士を組織して、多数の軽度外傷性脳損傷の患者の方々の要請に応えられるような態勢をとりつつあります。現在までに17件の事件について分担をして受任しています。今後も意欲ある中堅・若手弁護士の参加を期待しています。


◇軽度外傷性脳損傷について障害等級11級⇒3級 2012年3月29日判決期日

1 1997年7月28日の通勤途上の高速道路での自動車事故による軽度外傷性脳損傷事案。

2 車両の後部は完全に潰れてエンジンも変形している状態だった。本件事故時の車両は、Tバールーフ(構造体で補強された形状のルーフ)であったため、自動車は天井部分が潰れることなく、原告は頸椎の骨折はしたが、一命を取り留めた。

3 甲府労働基準監督署長は、主治医の意見書に基づくと、「『生命維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、せき髄症状のため労務に服することができないもの』第3級の3に該当する」としながらも、平成15年8月8日付基発第0808002号「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」の認定基準に例示される麻痺による運動障害には該当しないとして、労災保険法施行規則別表第1に定める障害等級第11級に該当するとして、同等級に応ずる障害給付を支給する旨の処分をした。

4 原告は、この処分を不服として、審査請求及び再審査請求をしたが、いずれも棄却されため、東京地裁に提訴し、2011年3月10日に結審し、7月11日に判決言渡。判決の内容は、MRIやCTで異常所見が確認できない場合でも軽度外傷性脳損傷を認める判決でしたが、症状の大半は、本件事故から6〜9年たって生じたとして請求を棄却。
5 控訴審は、2012年1月19日に2度目の口頭弁論期日で結審。3月29日に判決言渡です。

6 国を被告とする事件で軽度外傷性脳損傷を正面から争う事案。

◇軽度外傷性脳損傷友の会第2回総会へのメッセージ

 14世紀には全ヨーロッパにまたがるペストの大流行が発生し、当時のヨーロッパ人口の3分の1から2にあたる約2,000〜3,000万人が死亡したと推定されている。これは光学顕微鏡が発明される前のことであり、人類はペスト菌を目視することはできず、ペストの大流行は、「悪魔の仕業」、あるいは、「ユダヤ教徒の仕業」とされユダヤ教徒への迫害や虐殺が行われた。

 1674年にオランダのレーウェンフックが光学顕微鏡観察によって初めて細菌を見出し、1894年にはスイス・フランスの医師で、パスツール研究所の細菌学者でもあったアレクサンダー・イェルサンが香港でペスト菌を発見した。

 イェルサンのペスト菌発見までの間、人類は、ペスト菌を目視できなかったが、目視しえないからペスト菌が存在しなかったものではない。14世紀のペストの大流行時もペスト菌は存在したのである。

 細菌の研究が進み、19世紀には、感染症の原因は寄生虫を除いて全て細菌であると考えられた時期があったが、1892年、タバコモザイク病の病原が細菌濾過器を通過しても感染性を失わないことをロシアのディミトリ・イワノフスキーが発見し、それが細菌よりも微小な、顕微鏡では観察できない存在であることを示した。

 この光学顕微鏡では目視しえなかったウィルスは、後に電子顕微鏡が発明されたことにより、目視することが可能となり、現在のウィルス研究の到達点に至っているのである。

 電子顕微鏡が発明されるまでの間、人類は、様々なウィルスを目視できなかったが、目視しえないからウィルスが存在しなかったものではない。1918〜1919年のスペインかぜの死亡者は4000〜5000万人と推定されているが、このスペインかぜの大流行の原因はインフルエンザウィルスであり、人類は当時の科学水準ではインフルエンザウィルスを目視することはできなかったが、インフルエンザウィルスは存在したのである。

 その時々の科学水準において、人類が目視により確認できる対象は限定されている。
 人類が一定の時点の科学水準において目視しえない存在を全て否定するというのは、科学ではない。

 神経イメージング画像診断においては、
    《神経イメージング画像上確認できるものはその存在を肯定できる》
は真実であるが、この逆、
    《神経イメージング画像上確認できないものはその存在を否定できる》
は真実ではない。

 ペスト菌を目視しえない時代に、ペストの流行を「悪魔の仕業」、あるいは、「ユダヤ教徒の仕業」とした中世の人類の誤りを繰り返してはならないのである。

 軽度外傷性脳損傷の機序については、機械的ストレスを受けた脳内の神経線維の損傷過程は、
・ 脳内に発生した剪断力によるびまん性軸索損傷であるとする考え方
・ 局所における細胞レベル、分子レベルの神経代謝カスケードの異常(具体的にその一部を挙げれば、A/D forcesでは局所の電解質恒常性ionichomeostasisが崩壊して発生する細胞膜のATP依存性Na+/K+ポンプの異常(細胞毒性浮腫cytotoxic edemaを招く)や、電位依存性Ca++チャンネルの異常(細胞死:Ca++mediated cell deathを招く)、Ca++イオンの細胞内進入による興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の細胞外への放出(神経毒を発揮する)、細胞骨格の不整misalignment等)
などの仮説が述べられている(注1)が、いずれであっても、現時点の科学水準下で得られる神経イメージング画像法の水準では、確認できない部分が残されている(注2)。

 現在の科学技術の水準をもってしても、神経線維の異常の存在について、その全てを神経イメージング法では確認できない以上、神経イメージング法では確認できない神経線維の異常の存在とその内容は、患者の神経学的所見を把握することによって確認するという方法がとられるのである。

 すなわち、軽度外傷性脳損傷の診断学において、神経線維に異常が発生したことは、第1に神経イメージング法で、第2に神経イメージング法を補填するための神経学的所見を把握する、という手順を採用するのである。

 電子顕微鏡でウィルスを確認することができなかった1892年に、細菌濾過器を通過しても感染性を失わないウィルスの存在をロシアのディミトリ・イワノフスキーが指摘したように、軽度外傷性脳損傷の原因となる神経線維の異常は、現時点ではその異常の全てを神経イメージング画像法で確認することができないことから、やがて電子顕微鏡がウィルスの存在を確認したように、新たな神経イメージング画像法が開発されて神経線維の異常の全容が解明される日が来ることを期待する一方で、その日が来るまでは、人類は過去の歴史の教訓を生かし、軽度外傷性脳損傷の診断学において神経学的所見の重要性を認識してこれを採用すべきである。

 このように、タバコモザイク病の病原が細菌濾過器を通過しても感染性を失わないことを確認しても、
    《その存在(タバコモザイク病の病原(ウィルスの存在)を、当時の科学技術の水       準では目視できないことを理由に否定する》
という非科学の立場に立ってはならないのである。

 貴会が、軽度外傷性脳損傷が広く認識されるために幅広く活動されることを、私は心から支援します。正しい科学的知見に基づき、軽度外傷性脳損傷に対する正しい理解がなされるためにみなさんと共に私も行動します。
注1) 石橋徹著「軽度外傷性脳損傷」55〜61ページ参照。
注2) 現在使用されているMRIは1.5Teslaか3.0TeslaもMRIであるが、7.0Teslaでは動物を対象として軸索損傷を描出に成功した。石橋徹著「軽度外傷性脳損傷」87〜88ページ参照。


◇軽度外傷性脳損傷のためのリハビリテーション・ワークブック

 訳者の藤野裕子さんは、東京弁護士会第二東京弁護士会合同図書館の貴重書をマイクロフィルム化する作業の早稲田大学図書館側の御担当者です。

 藤野さんと図書館関係でお話しをしている時には、私は藤野さんが軽度外傷性脳損傷に関係していることは存じ上げなかったのです。藤野さんは、その後、私が軽度外傷性脳損傷に取り組んでいることを知って、本書を贈呈くださったのです。

 軽度外傷性脳損傷が存在することを啓発する書籍さえ、まだまだ少ない現状で、軽度外傷性脳損傷の患者に対するリハビリテーションの方法を示している本書は、本当に貴重な書籍です。

 合同図書館の貴重書が、軽度外傷性脳損傷の貴重書を取り持ってくれたという次第です。

 私のところに相談に来られた、軽度外傷性脳損傷の患者の方にも早速紹介をしております。本書のリハビリテーションを実行してくれて、少しでも症状が軽減できると何よりです。
 藤野さん本当にありがとうございます。

◇1986年の仕事中の交通事故について2006年に軽度外傷性脳損傷の診断を受けて労災補償請求するも時効を理由に不支給となった処分を争う

 軽度外傷性脳損傷の患者さんの中には、受傷後長い期間、どうしてこんな苦しみを負わないといけないのか理解できないまま苦しんでおられた方が多くおられます。
 この事件の患者さんもその一人。受傷後、仕事ができなくなってしまったのに、事故による軽度外傷性脳損傷の症状と理解されず、家族からさえ怠けているのではないかと思われていた本当に気の毒な方です。

 幸い、受傷後20年を経過して軽度外傷性脳損傷と診断され、ようやく、その時点の医療給付請求、障害補償給付請求などをしましたが、中央労働基準監督署長は時効を理由に不支給処分をしたのです。

 時効制度を全面的に否定するつもりはありませんが、このようなケースで時効を援用するのが本当に社会的正義に合致しているのでしょうか?厚生労働省の職員のみなさん、どう思われますか?

○ 2010年6月に提訴(訴状)

○ 2010年8月20日:第1回口頭弁論期日。
 国は従来どおり労働災害補償請求権の時効消滅を主張(答弁書)。

○ 2010年10月29日:第2回口頭弁論期日。
 何と、国は、期日の1週間前になって、患者さんの状態は軽度外傷性脳損傷の症状ではないし、本件交通事故との因果関係はないという主張を記載した準備書面を提出してきました(被告第1準備書面)。従前の消滅時効の主張では、国の主張を維持できないと自ら認めたような主張です。
 国は、従前軽度外傷性脳損傷であることを認めて行政訴訟まで来ているのに、この時点で従前の自らの主張に反した不支給処分理由への変更は許されないという、原告の反論を記載した準備書面を早速作成して、第2回期日には、反論まですませました(原告第1準備書面)。

○ 2011年1月14日:第3回口頭弁論期日。
 被告は、原告の症状が軽度外傷性脳損傷でないとの主張書面提出(被告第2準備書面)。
 原告は被告に対して次の3点について求釈明要求(原告第2準備書面)。

(1) 新たな処分理由への変更は、追加・変更が決定時の理由とされなかったことに背信的な事情があるか否かに対する法律上の主張を明らかにされたい。
(2) 障害補償給付請求権の時効起算についての法律上の主張を明らかにされたい。
(3) 療養補償給付請求権についての時効起算についての法律上の主張を明らかにされたい。
○ 2011年3月17日:第4回弁論準備期日。大震災の関係で期日延期。

○ 2011年4月28日:延期後の第4回弁論準備期日。
 合議体での審理に移行。
 被告は、障害補償給付の消滅時効の起算点について判例を引用した主張(被告第3準備書面)。
 原告は、被告が引用する判例を誤読しており、被告が自ら引用している判例にさえ反したであることを主張。さらに釈明をしていない点についての釈明を要求(原告第3準備書面)。

○ 2011年7月4日:第5回弁論準備期日。
 被告の主張準備予定
 

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