下請業者の権利を守る

下負代金を支払わずに請負業務の履行を強制する元請業者の要求を「不安の抗弁権」で退ける

1997年8月29日東京地方裁判所(判例時報1634号99頁)

 内装工事についての元請会社の下請会社への不当な要求を、「不安の抗弁権」を理由に下請会社の主張を全部排斥した事案です。
 元請会社は下請会社に対して、オフィースビルの内装工事(工事代金3450万円、第1工事)を発注しました。下請会社は約定どおり工事を完了させました。

 ところが、元請会社は、支払期限(竣工後5か月後)になっても工事代金を支払わず、一方的に862万円づつの5か月分割を通知したのです。
 下請会社は、このような分割弁済には応じられないこと、その頃に元請会社から注文を受けていた別のオフィースビルの内装工事(工事代金5400万円、第2工事、一部工事に着手済)については、施主、元請会社及び下請会社の三社間の協議により、下請代金が確実に支払われる方法を求めましたが、元請会社は交渉に応じませんでした。

 下請会社は、元請会社が下請代金の支払いを確実にするまで第2工事を一時中断したところ、工事中断後2日後には、元請会社が下請会社に対して、下請会社の債務不履行を理由として工事請負契約を解除し、損害賠償を求めてきた事案です。
 下請会社は、債務不履行は存在しないので、元請会社の解除通知は、注文者の解除権の行使であるとして、逆に元請会社に対して、第1工事請負代金全額と第2工事の既施工工事代金の支払いを求めたものです。

 裁判所は「不安の抗弁権」の考えを採用して、下請会社の工事中断をやむをえないものとして、下請会社の債務不履行を否定して、下請会社の主張を全部認めた事案です。
 元請会社が、その優越的な地位に基づいて「下請いじめ」と言われる無理難題をいうケースは少なくありませんが、この判決は、下請会社の権利を守った判決の一つです。