全国大学体育連合での講演

 公益社団法人全国大学体育連合は、2024年3月23日、令和5年度通常総会を開催しました。

 私は、全国大学体育連合葛西順一専務理事(早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授)から、総会で、「大学でのスポーツや体育におけるインテグリティとコンプライアンス」のテーマで講演することを依頼され、担当しました。葛西先生とは、日本スポーツ協会倫理・コンプライアンス委員会処分審査会で一緒に仕事をしている御縁です。

 全国大学体育連合は、「本連合の使命は、大学保健体育教育に関する研究調査を行い、その成果の普及活用を図るとともに大学相互の連絡、協力体制を確立し、大学教育の発展に寄与することです。活気と親しみにあふれるキャンパスと社会を構築することを理想として掲げています。殊に近年では、ファカルティ・ディベロップメント(FD)の団体として中核的な役割を果たしてきています。」という組織です。ファカルティ・ディベロップメントは「教員が、授業内容・方法を改善し、向上させるための組織的な取組の総称」です。

 私は、2012年、全国大学体育連合が公益法人化する際にお手伝いをしたことがありました。葛西先生の依頼とはいえ、大学教員を対象としたこのテーマでという講演は、「釈迦に説法」という気がし、お引き受けするかためらいました。

 私は、これまで、様々なスポーツ団体の不祥事の解決に当たり、現在も、日本スポーツ協会と日本学生野球協会の処分を決定する部門の仕事をしているため、大学で保健体育教育に携わっている方々より、スポーツの負の部分=影の部分を多く見ている立場です。

浦和レッズ サポーターの違法行為を防止するための第三者委員会(2023年)
日本水泳連盟 日本水球女子代表合宿中止に関する第三者調査委員会(2018年)
文部科学省 運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議(2017年)
全日本柔道連盟 スポーツ振興くじ助成金等の不正受給疑惑についての第三者特別調査委員会委員(2013年)
日本オリンピック委員会 専任コーチ謝金の競技団体への環流問題の第三者特別調査委員会委員(2012年)
日本相撲協会 (野球賭博問題等)特別調査委員会委員(2010年)/ガバナンスの整備に関する独立委員会アドバイザー(2010~11年)/(八百長問題)特別調査委員会委員(2011年)
日本高等学校野球連盟 高校野球特待生問題有識者会議委員(2007~2008年)

 このような立場から、

(1)スポーツの影の部分を紹介し、

(2)この影の部分に踏み込まないために何が必要か、

(3)道を外れて影の部分に足を入れてしまった場合に、どうしたら、早くそこから立ち直ることができるのか、

ということは、現役の大学教員の方々よりは多く見ている立場ではあります。私がこのような体験を話することはそれなりに意味があることだろうと考えて、お引き受けしました。

 講演の内容は、全国大学体育連合が反訳し、講演録として全国大学体育連合機関誌である「大学体育」123号(51巻1号、2024年6月15日発行)に掲載をしていただきました。

 全国大学体育連合の関係では、2024年6月22日の「学科長協議会」でもお話をする機会を頂きました。こちらでは、「スポーツコンプライアンスに何が必要か-大企業の不祥事対策と比較して」というテーマで、企業のコンプライアンスと比較しながらスポーツにおけるコンプライアンスに必要なことをお話をしました。

 6月22日の話は、日本経営倫理学会の「スポーツと経営倫理」というテーマでの第26回研究大会(2018年)の成果を反映させた話をしました。

 コンプライアンス、ガバナンス、インテグリティとカタカナが多いと、関係がよくわからない場合がありますが、私はこのスライドを使って説明をしております。

 横棒が水平線=良いことも悪いこともない状態です。私が担当するのは、専ら、この水平線の下の部分です。水平線の下に行かないように予防し、水平線の下に行った事案を水面まで引き上げる仕事です。

 私は、コンプライアンス、ガバナンスが欠けているために生じるトラブルはたくさん見ている立場ですが、インテグリティがある、インテグリティが高いという=スポーツの光の当たる部分については、市民の方々より多く接する機会はありません。

 悲しいことですが、私が多く体験してお話しできるのはスポーツの影の部分です。

 大学教員の方々に少しでもお役に立てたならと思っております。

PS 北海道教育大学岩見沢校武田丈太郎准教授が、私の講演を「大学体育」123号(51巻1号)へ収録する作業を御担当いただきました。武田准教授は、昔から日本スポーツ法学会で一緒に活動させていただき、2024年7月の夏期合同研究会でもホストとしてお世話になっております。今回は全国大学体育連合の関係でも、講演の内容をうまくまとめていただき深く感謝しています。