文部科学省体罰実態調査が示すもの【季刊教育法185号、2015年】

 文部科学省は、2013年8月9日、「2012年体罰の実態把握について(第2次報告)」を公表しました。大阪市立桜宮高校バスケットボール部で顧問教諭から体罰を受けた男子生徒が自殺した事件を契機に行われた緊急調査です。
 対象となった学校は、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校です。本体罰調査により、2012年度に国公私立学校4,142校で6,694件の体罰が発生していたことが判明しました。
 文部科学省体罰実態調査については、体罰事案が急増していることが注目されて報道されていますが、それに留まらず、都道府県別、学校別等の集計があり、興味深い結果となっています。具体的な数値は、書籍を参照していただくという前提で要点を紹介すると以下のとおりです。
(1) 小・中・高校の比較では、中・高校での体罰の発生率が高い。その最大の原因は、中・高校では、部活動における体罰が多いことにある。
(2) 小・中・高校における体罰の態様では、小学校に比較して中・高校において直接的暴力が増加し、特に「殴る及び蹴る」あるいは「棒等で殴る」等と傷害につながる危険性がより高い体罰が増加している。
(3) 小・中・高校における体罰の被害状況を比較すると、中学校における傷害被害が多いのが特徴であり、中・高校では、攻撃の対象が顔面である体罰が件数及び比率の両面で高く、高校が件数・比率共に最も多いことが特徴である。
(4) 公立学校を基準に比較検討すると、小学校・高校で私立学校の体罰の発生率が高く、中・高校では国立学校での体罰の発生率が低い。
(5) 地域により体罰への親和性が高い地域と低い地域とがある。
 調査結果を踏まえて、体罰を根絶するための取り組みとして重要な課題は次の3点です。
 第1は、文部科学省の課題です。文部科学省が大学等の研究機関に対して、本体罰調査及び追加調査を委託する等して、体罰発生数・発生率が高い地域及び高い学校と、逆に低い地域及び低い学校との間でどのような要因の差異があるかを分析し、教員が体罰に頼る原因を解明し、教員が体罰に頼らずに指導する方法を提起することが必要です。とりわけ、中・高校における体罰の多くが部活動中に生じていることに鑑み、部活動指導において体罰に頼らない指導方法の普及やコミュニケーション能力の向上のための研修等の施策を強化すること。
 第2は、都道府県教育委員会の課題です。各都道府県教育委員会、特に体罰の発生数・発生率が高い都道府県は、体罰の少ない他地域や国立中・高校の体罰防止の取り組みに学び、自県でどのような対策をとるべきかを研究し、体罰に頼らない啓発活動を強化すること。
 第3は、教員養成大学の課題です。体罰を行った教員は特定の大学に多いという声が聞かれますが、この点は基礎資料が十分でありません。そこで、文部科学省は、体罰を行った教員の出身大学について追加調査を行い、その調査結果を教員養成大学へ提供し、教員養成大学自身が、体罰に頼らない指導ができる教員養成の在り方を検討することが必要です。