判例に見る排水口事故の現状と対策【月刊体育施設30巻2号、2001年】

 日本では、学校プールの設置は1960年代から急速にすすみ広く普及した。現在使用されているプールのほとんどが循環浄化装置を採用し、プール底面ないし側面(水中、オバーフロー面)に設置された水の取り入れ口からプールの水を循環浄化装置に送っている。プールからの水の取り入れ口は、プール側から見て排水口と呼ぶ場合が多いので、ここでも排水口という。
循環浄化装置はプール使用時でも稼働している場合が多く、プール利用者が排水口に吸い込まれておぼれる事故は、20年間に30都府県で37件発生し、35人が死亡したと報じられている。なお、流れるプールやジェットバスでも同様の事故が発生している。
競泳の競技と練習に限定して、かつ、利用者を成人に限って使用させるならば、利用者の知識判断能力及びプールの使用方法にかんがみて、利用者が排水溝付近に自ら近寄り、かつ、排水溝に引き込まれるような位置に足を入れる行為は、本来の利用方法から逸脱をしていると判断することも可能である。
しかしながら、多くのプールは、水遊びを含めた利用を前提としており、かつ、未だ危険に対する知識及び判断能力が十分でない未成年者を含めて利用させている。プール管理者としては、水遊びとしての利用や未成年者による利用をさせる以上は、その利用方法に伴い予想される危険を回避する管理を行わなければならない。この安全管理がなされていない場合には、当該プールは「通常有すべき安全性を欠いている」として「瑕疵」が肯定される。
1970年代からすでに問題点は指摘されており、かつ、改善に困難が少ない排水口事故がこれだけ繰り返されているのは、スポーツ施設管理者の安全確保に対する関心が稀薄であるとしか言いようがない。判例上は、設置管理の瑕疵が肯定される以上、判断の必要がないので管理者の過失の有無については判示されていないがプール管理者の過失を肯定することは容易であると考える。
身体の一部を排水溝に密着させるなどすると、吸水圧が強く働き、吸い込まれたりすると自力での離脱が困難なばかりか成人数人の力をしても引き上げられなくなる。このような事故を予防するには、
① 桝状の排水溝のプールに接する部分の面積を大きくし、身体が排水溝全体ないし大半を覆うようなことを防止する構造とすること、
② 桝状の排水溝がプールと接する面には、移動困難な蓋をつけ、断面積が狭い排水管内に身体が入らないようにすること、
③ 万一、排水溝の蓋が開いていても、断面積が狭いパイプ内に身体が入らないよう、パイプ入口部分にも網状の施設を設置すること、
が必要であり、これらの安全設備に欠ける施設を設置し、欠けたままの管理をしていた場合には、通常有すべき安全性に欠けると判断される。
安全確保措置は、一つのミスが生じてももうなお、事故を回避できる二重の安全確保が必要である。①~②が完全であるならば③の安全確保措置は不要となるが、何らかの要因から排水溝の蓋が動いた場合であっても、なお、排水口に引き込まれない二重の安全確保という意味で、①~③の対策全部を取ることが望ましい。