20010910_アメリカ電通副社長のくも膜下出血死事件-東京地裁2001年5月30日判決【労働法律旬報1511号、2001年】

 アメリカ子会社に出向中の電通労働者がニューヨークから日本への出張中にくも膜下出血により死亡した事案について、東京地裁は2001年5月30日これを業務上と認める判決をした(確定)。
 本件は、アメリカにおいては被災者の死亡後1年4か月(申請後1年)で労災認定されたにもかかわらず、日本においては被災者の死亡後11年6か月(申請後11年2か月)を要し、日米の労災認定制度の差-日本における労災認定の著しい遅延という問題点が浮き彫りになった事案です。
 本判決の業務上外判断は、これまでの最高裁判例にそったものであり、特に目新しい内容はありません。しかしながら、東京地裁は、従前、厚生労働省とほぼ同一の判断枠組みを採用していたことにかんがみると、ようやく当然の判断基準に到達をしたという点で意義があります。
 アメリカにおいては、被災者の死亡後1年4か月で労災認定されたにもかかわらず、日本においては、労災申請後業務外決定が出るまでに3年5か月、東京労働者災害補償保険審査官の決定に3年2か月、労働保険審査会の裁決に3年9か月を費やしました。本件では、審査請求後3か月を経過した段階で決定がないことを理由として行政訴訟を提訴していたため、労働保険審査会の裁決後6か月後には判決により業務上災害であることが認められました。
 日本においては、このように審理に長期間を要する理由は3点あります。
 第1に、事実上行政手続法の適用除外となっており、過労死事案についてはその全てが標準処理期間が定められておらず、行政手続法による適正迅速な行政の保護の外に置かれています。
 第2に、迅速でない労働行政、行政不服審査制度は、国側からは経済的には「好ましい」からです。審理を長引かせて国側が敗訴しても、国側に経済的デメリットはありません。税務訴訟と同様に、年率7.3%の付加金を支払わなければならないとしますと、本件のように11年も遅れて支給する場合には、保険金総額の44%に該当する遅延損害金を支払わなければなりません。
 第3に、労働者災害補償保険審査官及び労働保険審査会では、確立された判例法理に基づくのではなく、厚生労働省の認定基準に固執して判断をし続けているという点にあります。
 業務上の事由による労働者の負傷等に対して「迅速かつ公正な保護」を目的とする労働者災害補償保険法の趣旨に従った審理を実現するためには、
1 過労死を含めた労災保険給付請求の標準処理期間の例外規定を廃止し、6か月以内の標準処理期間と定める。
2 標準処理期間経過の翌日を起算日としての年7.3%の付加金の支払いを義務つける。
3 標準処理期間経過後労災保険支給決定がなされない場合は、不支給決定があったものとして審査請求を可能とする。
4 労働者災害補償保険審査官、労働保険審査会の2段階の行政不服審査手続は存在意義がないので、労働保険審査会を廃止する。
5 迅速公正な審理が可能となるように過労死認定基準に変更をする。
の提言をしました。