学校保健法は、「学校における保健管理及び安全管理に関し必要な事項を定め、児童、生徒、学生及び幼児並びに職員の健康の保持増進を図り、もつて学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資することを目的」(法1条)とする。
立法時の政府提案理由では、「児童、生徒等の健康は、学校教育における学習能率の向上の基礎でもあり、更には健康の増進そのものが教育の目的につながるものであります。およそ児童、生徒、学生および幼児ならびに職員の健康の保持増進を図ることは、学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資する基本的要件の一つ」とされている。
学校保健法制定前は、「指導措置によって学校における保健管理の強化に努力してまいったのでありますが、法的不備と相まって必ずしもじゅうぶんな成果を期待でぎず、優良な学校も一部に出てきた反面全国的には低水準にあることを免れなかった」(政府提案理由)との現状の下で、学校保健法は健康診断を一つの柱とし、学校保健法施行令及び学校保健法施行規則と共に、健康診断の方法および技術的基準、その時期、検査の項目等を定めた。健康診断は、就学時の健康診断(法4条)と在学中の定期健康診断(法6条)とが定められている。
学校保健法制定から現在まで約50年が経過しているが、生活環境と児童生徒の健康をめぐる問題は大きく変化した。
編集者の序では本書の目的は次のとおり述べられている。
「子どもたちのからだがおかしい」、「こころのひずみが気にかかる」等と言われ始めて久しい。もう30年以上にもわたって、そうした指摘・警告が、統計データや鮮烈な事例・事件の報告と共に毎年のようになされてきた。特に近年は、子どもたちの身体、健康に関わる二極化(二分化)がいっそう顕在化している。日常の身体活動や運動・スポーツの不足に伴う生活習慣病の増加、体力・運動能力の低下が深刻化し、もはや定着している。一方、運動・スポーツの過多と誤った方法に伴うスポーツ傷害や重篤な事故も多発している。いずれもが、子どもの心身の成長・発達の特性に見合った形と内容の身体活動・運動・スポーツがなされていない故の健康障害と位置づけられる。
「運動器の10年」世界運動(2000~2010年)は、あらゆる人々が運動器と運動を人切にし、自身のからだをしっかり動かし、やりたいこととやるべきことが可能となるようにと、多彩な活動を展開している。その「10年運動」の重点を置く疾患に含まれる「小児の運動機能障害、スポーツ障害への具体的対応」のひとつとして、日本委員会では予防と教育の立場から、平成17(2005)年度より「学校における運動器検診体制の整備・充実モデル事業」を継続し、北海道、京都府、徳島県、島根県の4地域での調査・研究を推進し、平成19(2007)年度からは、これに新潟県、宮崎県も加わり、全国6地域での活動が展開されている。本事業の目標は、学校における運動器検診体制を整備・充実することにより、児童・生徒のスポーツ傷害や運動機能障害を早く発見し、適切な指導・教育・治療を施し、心身共に健全な成長・発達に結びつけることにある。
本書は、学校における運動器検診を整備・充実する必要性・理由・科学的根拠、その具体的方法と内容、運動器検診の経験から得られた提言、実際の指導・教育に役立つ児童・生徒によくみられる運動器疾患・障害の概要、子どものスポーツのあるべき姿、学校保健関連法規の変遷等を、全国の多様な専門家が執筆した基本的な書籍である。「法律の立場からみた運動器検診の社会的意義」を担当した。