運動部活動の理論と実践【大修館、2016年】


 運動部活動の指導にあたる教員を対象としたテキストです。
 私は、「運動部活動の事故をめぐる法律知識」の項を担当し、安全に運動部活動を指導することを解説しています。
 運動部活動を含むスポーツに伴う事故が発生し、その再発防止を考えるときに二つの意見の対立が生じます。
 一つが、「猪突猛進型」の意見です。「スポーツは危険を内在しており、スポーツに伴う事故を皆無にすることは不可能である」という理由から、「事故を回避できなくてもやむを得ない」と評価し、対策としては「恐れずチェレンジしよう」ということになり、事故を繰り返します。指導者に見られがちな意見です。
 もう一つは、「石橋叩いても渡らず型」の意見です。スポーツ事故が生じると、当該スポーツは「事故が生じるような危険なこと」という評価をし、「そんな危ないことは止めてしまえ」と、スポーツ活動自体を否定する意見です。施設管理者の側に見られがちな意見です。
 いずれの意見も正しくありません。
 スポーツは、さまざまな身体的な活動を伴い、その過程においてスポーツをする者が受傷する事故を完全に避けることはできません。スポーツ事故を完全に避けようとするならば、当該スポーツをしないという選択しか残りません。この意味では、スポーツは危険を内在し、事故を皆無にすることは不可能である。競技者は、一定のスポーツ事故については、当該競技に参加することで事故に被災する危険性を認識し、かつ、これを許容して当該競技に参加しています。
 しかし、スポーツに参加した者が事故に被災した場合に、その事故の全てを参加者が許容しているものでもありません。スポーツに内在する危険でも、当事者がその危険が現実化することを許容していない事故については、不可避な危険とは考えられておらず、事故を回避できなかった場合には、法的紛争となります。
 スポーツに伴う事故を皆無にすることは不可能ですが、これは、スポーツに伴う事故の全てが回避不能である、ということとは同一ではありません。「猪突猛進型」の対応では、回避可能な事故を回避することなく、繰り返し生じさせてしまう点において正しくありません。
 スポーツでの事故を予防するためには、個々のスポーツ事故の原因を分析し、対策をたてることが必要です。
 実際に生じた事故=失敗から学ぼうとしないために事故が繰り返されており、過去の事故例を知ることが重要です。