医療事故における患者と家族への説明【治療83巻2月増刊号、2001年】

 医療契約は、専門的知識と技術による適切な診断と治療をなすことを医師の義務とする一種の準委任契約です。準委任契約とは、法律行為(契約の締結など法律効果が認められる行為)以外の行為を委託する契約で、法律行為を委託する契約である委任契約の規定が準用されます(民法第643条、第656条)。
準委任契約では、「受任者は委任者の請求あるときは何時にても委任事務処理の状況を報告し、また、委任終了の後は遅滞なくその顛末を報告することを要す」(民法645条)とされており、医療契約においても、治療行為を受託した医師は、委託者である患者に対して、
① 患者が報告を求めた時は、いつでも委任事務処理の状況を報告し、
② 治療が終了をした時は、患者の求めが無くても、遅滞なくその顛末を報告する、
義務があります。
判例上は、医療契約の特殊性を考慮しても、本人が説明報告を求めている時には、その時期に説明・報告をすることが相当でない特別の事情がある例外的な場合を除いて、診断の結果、治療の方法、その結果等について説明・報告をしなければならないとしています(東京高判昭和61年8月28日判例時報1208号85頁)。
説明義務は、治療の様々な局面において問題となりますが、本稿では、医療事故が発生した場合、すなわち、医療の過程において患者側に死亡、生命の危険、病状の悪化等の身体的被害及び苦痛、不安等の精神的被害が生じた場合の医師の患者への説明について、
① 患者本人に対してのみならず、遺族や家族に対しても説明義務を負うのか?
② 医療事故が発生した時には患者や家族にどのように説明すれば良いのか?診療録の閲覧請求に応じなければならない義務があるのか?文書で説明を求めたら応じなければならないのか?
③ 医療事故を医療紛争にしないためにはどのような点に注意すれば良いのか?
いう3つのポイントについて解説しています。
説明の仕方についても、患者側の気持ちを理解した対応が必要です。医療被害者団体「医療消費者ネットワークMECON」には、医療事故の被害者や家族が医師から事故の説明を拒否されたり、暴言を吐かれたり、二重に傷ついたとの苦情がこの6年間に2500件余り寄せられていると報道(毎日新聞2000年8月13日)されていますが、医師の側からは誠意をもって対応していると考えても患者側からは非常識な対応と受け止められる場合は少なくないこと、患者側の立場で考えることが問題提起されていることを考慮することが必要です。