熱中症事故の予防と対策-判例から導く施設管理者の義務と責任【月刊体育施設35巻7号、2006年】

 月刊体育施設35巻7号(2006年4月)は熱中症事故の予防と対策の特集号です。
判例から見た熱中症事故の予防と対策を紹介しました。熱中症に関して、指導者・施設管理者の責任が問われた事件で公判集に掲載された事件は14事件(内刑事事件2件)16判決あります。3事件を除きいずれも損害賠償請求が認容(あるいは有罪認定)されています。
これらの判決に照らして、予防のために何が肝要かを分析することが必要です。
これまでの裁判例では、①高温・高湿度という環境下で負荷の大きな運動を行わせたことの是非、②休息や水分・塩分補給を適切に与えたか否か、③体調不良な者に対する看護・救護措置が尽くされたかが争われており、施設管理者の責任が問われたのは1事件だけです。
熱中症事故を防ぐための施設管理者として検討すべき事項は次の4点です。
第1に、利用者に熱中症の危険性を正しく理解してもらうことです。熱中症は「無理と無知」から生じますが、まだまだ熱中症に対する十分な知識が普及していない現状の下では、施設管理者としても熱中症に関しての啓発に配慮する必要があります。施設内の掲示、利用者に交付する利用証の注意事項の記載などで工夫が望まれます。
第2に、熱中症発生の危険性が高い時には、これを知らせることです。危険性を判断する指標としては、黒球湿球温度(WBGT)があり、屋内施設及び屋外施設問わず、利用者がWBGTを知ることができるような設備を整えることが望ましいです。
第3に、熱中症の発生を防止するために必要な給水設備や日光の直射を避けることができる設備を充実させることが必要です。
第4に、熱中症が発生した場合に、すみやかに医療機関への連絡が可能となるような設備あるいは人員配置が求められます。