「教育行政に何が求められているのか-プールでの競泳スタート事故を繰り返さないために」【季刊教育法193号、2017年】


1993年4月12日の参議院決算委員会。文部省のプールでの競泳スタート事故対策が十分でないとの質問に対して、奥田與志清文部省体育局長・森山眞弓文部大臣は「(事故予防に)できるだけ努力する」、「最大の努力」をすると約束をしました。
この約束として何をすべき必要があるかの提言です。
【提言1】スタート事故のメカニズムの正しい知見を基礎とする必要があります。スタート事故の危険性の大きさ、言い換えれば危険が現実化する頻度と現実化した際の損失を考慮してその危険性を許容するか除去するかを決める必要があります。科学的知見はこの判断に不可欠です。
【提言2】全ての学校に安全なプールを設置するという先入観を捨てた上で対策を講じます。複数の利用目的が1つのプールでまかなえなければ、それぞれの目的に合致した複合構造のプールとするか、構造の異なる複数のプールを用意する以外安全性を担保する方法はありません。このような複合構造のプール・水深を変えることが可能なプールあるいは複数のプールを全学校に導入するのは困難です。屋外プールを使用できる期間は限られています。一時期しか使用しない施設を全学校に設置しなくても、社会教育施設と共用の施設として充実したプールを設置して、複数の学校で年間を通じて使用するという方法も視野に入れて検討すべきです。
【提言3】緊急避難的な暫定的措置は直ちに実行し、同時に、暫定的措置で満足することなく、中長期的な視点での安全なプールを普及させます。スタート事故だけではありません。組み立て体操もムカデ競走も「やめてしまおう」が蔓延しています。「猪突猛進型」を選択せず、緊急避難的な暫定的措置として、安全でない既存の施設でのスタート指導を中止することは当然ですが、暫定的措置であることを失念すると「石橋叩いても渡らず型」の誤りとなります。
【提言4】教員に無理を強いてはなりません。教育条件整備の不充分な実際において、教師が施設管理の一端を担わざるを得ないとしても、教師が危険であると認識するような施設は使用することなく、教員に無理を強いない教育行政が求められます。