卓球台を小学生に収納させる際の教師の責任-大阪高裁平成9年11月27日判決【SECURITY SPORTS LIFE2号、1998年】

 収納中の折り畳み式卓球台を小学生に収納させた際に卓球台が転倒し、児童の1人が下敷きとなり傷害を受けた事故についての大阪高裁1997年11月27日判決(判時1636号63頁)の判例評釈です。
 スポーツでは様々な用具を使用し、これの安全性が問われる事件も多い。本来の使用方法で事故が生じる場合は、安全性に欠ける用具を製造した者が製造物責任ないし工作物責任を負い、かつ、安全性に欠ける用具を使用させた指導者も責任を負うのは当然である。5歳の幼児が固定されていないまま放置されていたブランコを使用して転倒死亡した事故(仙台地裁1967年4月28日・下級裁判所民事裁判例集18巻4号499頁)、小学校5年生の児童が移動式運梯で飛行機飛びをしたところ雲梯が転倒して死亡した事故(京都地裁1972年11月30日・判例時報704号77頁)、バトミントンのラケットが抜けて飛び出し、受傷した事故(神戸地裁1978年8月30日判決・判例時報917号103頁)などがある。
 しかし、本来の使用方法と異なる状況下で事故が生じた場合については、責任の有無について判断が分かれている。サッカーゴールを移動中にその下敷きになったり(鹿児島地裁1996年1月26日・判例タイムズ916号)、サッカーやハンドボールのゴールにぶら下がって遊んでいてゴールが転倒してその下敷きになる事故(千葉地裁木更津支部1995年9月26日・判例時報1559号、福岡地裁1985年6月30日・岐阜地裁1979年2月28日判決)、箒を使ってのホッケー遊び中に箒の先端部がはずれて失明した事故(東京高裁1993年8月31日・判例タイムズ848号)、幼児がテニスの審判台によじ登ったところ転倒した事故(最高裁1993年3月30日判決・判時1500号161頁)などについて先例がある。
 これらの事案で判断されるのは、製造者ないし管理者が、事故が生じた使用方法を予見できたか否かである。使用対象者の体力、体格、判断能力に照らして、本来の使用方法でない使用、あるいは、使用対象者以外の者が使用することが予測可能な範囲であるか否かである。
 本件においては、メーカー自身が大人が使用することを前提として安全性を確保しているに過ぎず、児童に使用させる場合は、その体格、体力、年齢に照らして危険性があるとの判断がなされた。一審判決と結論を異にしたのは、本件判決では、卓球台を折り畳む際に、これが転倒するメカニズムについて詳細に検討し、転倒の危険性を認めたところにある。