1997年9月9日衝撃的な報道が配信されました。日本オリンピック委員会(JOC)が五輪強化指定選手約700人、各競技団体の指導者約1000人を対象に実施したアンケートで、18人の選手と34人の指導者が禁止薬物の使用を認めました。「日本選手がドーピングをするのを見たことがある」(32人)、「ドクターからドーピングを利用しての指導を勧められたことがある」(19人)という回答もあり、薬物汚染は予想を超えてまん延しています。
ドーピング対策をめぐっては、①規制をする理由、②規制対象、③検査手続、④制裁内容、⑤被制裁者の不服申立手続などをめぐり様々な問題が生じていますが、これまでの法的視点からの検討は十分ではありません。
具体的に生起した事件を通じて問題点のいくつかを紹介します。
紹介した事案は次の5件です。
① 長野五輪スノーボード男子大回転で1998年2月8日優勝したカナダのロス・レバグリアティ選手からマリファナ(大麻)が検出された(17.8ナノ〔1億分の1〕グラム)事件
② 体内で男性ホルモンであるテストステロンに変化する補助栄養剤に「アンドロステネジオン」をアトランタ五輪砲丸投げ金メダルのランディ・バーンズが服用し、1998年7月に国際陸連から無期限の出場停止処分を受けた事件
③ 造血ホルモン剤エリスロポリチン(EPO)をめぐる事件
④ メアリー・スレーニー選手は、1996年6月のアトランタ五輪米国代表選考会後のドーピング検査で、高濃度のテストステロンが検出された事件
⑤ 競技団体ごとに制裁期間が異なる点についてのCASや、ドイツ、フランスなどの裁判所で処分期間を短縮する判定