プールにおけるスタート事故の原因と対策【季刊教育法135号、2002年】

 日本体育・学校健康センターの学校事故に関する保険給付統計(1986~98年)によると、教育活動としての体育活動に伴い後遺障害を残した事故(小学・中学・高校・高専)は5,497件ありますが、この内水泳での事故は142件であり全体の2.6%を占めるに過ぎません。ところが、重度後遺障害(神経・精神障害1級)に限定すると175件中58件(35.3%)と、水泳での事故が全体の3分の1以上を占めます。
日本パラプレジア医学会・日本整形外科スポーツ医学会の調査報告においては、海やプールでの水底への衝突による頸髄損傷事故件数は、1990年だけで44件にのぼり、全スポーツ・レジャーの頸髄損傷事故182件の24%を占めています。全国脊髄損傷者連絡会のアンケートにおいても、スポーツによる頸髄損傷事故は、水泳(43・0%)が第1位の原因となっています。
スポーツ損害賠償請求事件判決から見たプールでの事故は、溺水事故とスタート事故とで全体の85%を占め、スタート事故訴訟が著しい増加傾向にあります。
プールでのスタート事故の背景には、事故一歩手前の状況が多数あります。宮崎市立宮崎中学校スタート事故訴訟判決(1)では、大事故には至らないものの、約3分の1の生徒がスタートで水底への接触経験があることを指摘しています。スタート事故がいつ発生してもおかしくない危険な状態は広範に存在し、重篤な障害をもたらすスタート事故は繰り返し発生している現状について紹介し、①浅いプールが[普及」した原因、②(財)日本水泳連盟の公認規則の変遷、③プールでの到達水深の実験、④安全のための余裕“error margin”、⑤プールの設置管理の実態、⑥危険な状態が放置された原因、⑦スタート事故の防止のための施設のガイドライン、⑧スタート事故予防のための指導上の問題について解説をしています。