何が体罰で、どこまでが体罰ではないのですか?【Sports japan2013年11-12月号】

 日本スポーツ協会の機関誌「Sports japan」の「スポーツ法律入門」のコーナーの解説です。
「Q.何が体罰で、どこまでが体罰ではないのですか?」との質問へ答えています。
大阪・桜宮高校のバスケットボール部で生徒が自殺した事件をきっかけに、最近はスポーツにおける暴力・体罰が大きな問題となっています。一方でこれほど大きな社会問題になっているにもかかわらず、いまだに暴力・体罰は多くの場所で行われており、問題となるケースが後を絶ちません。非常に残念ですが、それが現場の実態です。
桜宮高校の事件では、顧問の先生の「手をあげたことで効果があった」という誤った成功体験が、体罰の根拠となっていました。この誤った認識は、多くの体罰問題に共通するものです。
NHKが2012年にスポーツの全国大会に出場した150あまりのチームを対象に今年2月に行った緊急アンケートによれば、全体の39%にあたる41校で、これまで部活動の指導で体罰が問題になったという回答がありました。さらに暴力をふるった理由を複数回答で答えてもらったところ、最も多かったのは「指導のため」(63%)で、さらに「生徒に違反行為があった」(37%)、「士気を高めるため」(32%)という回答が続きます。
日本体育協会や日本オリンピック委員会等の5団体は、2013年4月に「スポーツ界における暴力根絶宣言」を採択しました。ここでは、「これまでわが国のスポーツ界において、暴力を根絶しようとする取り組みが行われなかったわけではないが、十分であったとはいい難い。本宣言は、これまでの強い反省に立ち、わが国のスポーツ界が抱えてきた暴力の事実を直視し、強固な意志を持って、いかなる暴力とも決別する決意を示すものです」と述べています。
スポーツ現場における体罰、暴力を根絶するためには、①暴力・体罰は許さないとの明確な立場を宣言すること、②暴力・体罰に頼ろうとする指導者、生徒、保護者への啓発活動、③暴力・体罰を隠蔽させず、これを許さない毅然とした行動が必要です。
指導者が暴力・体罰をふるう要因を類型化すると4つのパターンがあります。①確信犯型=暴力をふるうことで強くなると本気で思っている、②指導方法わからず型=建前ではいけないとわかっているが、どうすれば強くできるかがわからないから手をあげてしまう、③感情爆発型=カッとなってキレてしまう、④暴力好き型=暴力をふるうことが好きで、快感を覚えてしまう
①と②については、「強い選手、チームを作るためには暴力が有効である」という認識が基礎になっています。スポーツにおいて勝利を目指すことは大切な要素ですから、「強い選手、チームを作るためには暴力が有効である」という間違った認識が変わらなければ、暴力はなくなりません。
よく「勝利主義が体罰の原因である」という意見を聞きますが、これは誤りです。その考え方は「強くなるためには暴力が有効である」という認識に基づいているわけですから、いわば暴力肯定論者と同じ立場に立っていることになります。
勝利を目指すためには、暴力は有効ではなく有害であるということを、スポーツ界全体で共通の理解にすることが、いま最も必要だと考えています。