「暴力・暴言・ハラスメントと部活動-この10年で変わったことと変わらないこと-」

 日本部活動学会第6回研究集会「暴力・暴言・ハラスメントと部活動-この10年で変わったことと変わらないこと-」が2023年12月16日に筑波大学附属高等学校「桐陰会館」で開催されました。私は、基調報告「どうして部活動指導者は手を上げ、怒鳴るのか?」を担当しています。
要旨は以下のとおりです。

どうして部活動指導者は手を上げ、怒鳴るのか?

望月浩一郎(パークス法律事務所・弁護士)

 私は、日本学生野球協会審査室委員として高校・大学野球の指導者・部員の日本学生野球憲章違反行為に対する処分を決定し(*1)、日本スポーツ協会処分審査会委員として日本スポーツ協会登録指導者・スポーツ少年団指導者の倫理規定違反行為に対する処分を決定し、日本スポーツ協会再教育プログラム審査会委員として、再教育プログラムの終了判定の仕事をしている。

  スポーツ界の大きな不祥事については、第三者委員会が設置されるが、これまで、日本体育協会等5団体「スポーツ界における暴力根絶宣言」作成委員会(2013年)、文部科学省「運動部活動の在り方に関する調査研究協力者会議」委員(2013年)、同「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議」委員(2018年)、日本オリンピック委員会(JOC)「専任コーチ謝金の競技団体への環流問題の第三者特別調査委員会」委員(2012年)、全日本柔道連盟「スポーツ振興くじ助成金等の不正受給疑惑についての第三者特別調査委員会」委員(2013年)等にもかかわってきた。

 私は、スポーツ界の不祥事を毎日見る立場にあり、スポーツにおける「暴力・暴言・ハラスメント」(以下「暴力行為等」という。)の対応に当たっている。スポーツ界の不祥事は大別すると右の表のとおり6類型あるが、「暴力行為等」の問題は、スポーツ分野に固有の問題ではない。
学校で言えば、運動部活動だけでなく、文化部活動、生活指導等全ての分野に共通して「暴力行為等」の問題は生じている。その原因と対策も共通である。

 報道される「暴力行為等」事案、日本スポーツ協会の「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」への相談件数は、この15年間で顕著に増加している。「暴力行為等」は、統計上は増加しているが、現場で、「暴力行為等」と対峙している者としては、実態は大きな変化はないという実感だ。

 SNSの普及、スポーツに対する社会の注目度の増加等の要因から、「顕在化」により、「暴力行為等」が増加しているような指標が示されていると考えている。

 私は、スポーツ分野における「暴力行為等」の問題を見ている者として、学校での運動部活動中の「暴力行為等」の実態を紹介し、これまでの「暴力行為等」をなくそうとする取り組みが成功していない原因を検討する。

 運動部活動中の「暴力行為等」の原因については、
(1) 「学校における運動部活動を『スポーツ』ととらえるから、教育という部分がなくなり暴力が生じる」という意見、
(2) 「学校における運動部活動を『体育』ととらえるから、道徳教育の影響があって暴力の原因になる」という意見、
(3) 「学校における運動部活動における暴力の原因は、運動部活動において『勝利主義、競技志向』が強いことが原因である」という立場から「勝利を目指すから暴力に頼る」という意見、
等が主張されてきた。しかし、これらの意見はいずれも正しくない。

 運動部活動中の「暴力行為等」の原因を正しく把握できていないことが、「暴力行為等」との闘いに勝利できていない要因の一つである。「暴力行為等」の原因は下の表のとおり4つに類型化できる。

 「『暴力等』が好き」という一番右側の類型が間違っていることは容易に共有化できる。「感情コントロールできず型」は、アンガーマネージメントの問題として、これも広く認識され、企業や学校においても対策が取り組まれている。

 問題は、「暴力行為等」が指導として有効と確信している又は他の指導方法を知らないために「暴力行為等」に頼るという左の2つの類型である。この2つの類型の「暴力行為等」を克服するためには、「競技力を向上して、すぐれたチーム、すぐれた選手を育てるためには何が必要か」という点で共通の認識を得なければならない。

 日本オリンピック委員会が2013年3月に実施したアンケート(*3)がその答えを示している。トップアスリートとその指導者は、「暴力根絶に必要なこと」に対する回答は、①正しい指導ができる指導力があること、②アスリートに指導内容を伝えるコミュニケーション能力があることの2つで全体の3分の2を占めている。

 運動部活動において「暴力行為等」を根絶する道は、「競技力を向上して、すぐれたチーム、すぐれた選手を育てるために必要なこと」を、運動部活動にかかわる全ての人で共有することである。

 学校における文化部活動においても、生活指導においても、「暴力行為等」を根絶する道は同じである。部活動における「暴力・暴言・ハラスメント」を根絶するためには、その原因と根絶するための道を、全部活動関係者において共有することが必要だ。