68歳警備員の脳梗塞死と労災認定 労働保険審査会1998年6月30日富士保安警備事件裁決の意義【労働者の権利227号、1998年】

 68歳の警備員が、連続38時間の病院での警備業務に従事中、脳梗塞により死亡した富士保安警備事件で、労働保険審査会は、1998年6月30日、労災保険不支給処分を取り消した。
富士保安警備事件は、使用者である㈱富士保安警備に対する損害賠償請求と労災保険不支給処分をおこなった中央労基署長に対する処分取消請求手続とが平行して審理されア、損害賠償請求事件は、1996年3月28日の東京地裁判決(労働判例694号34頁、判例時報1635号109頁)を受けて、同年11月25日の東京高裁の和解で終了した。一方、労災保険不支給処分取消請求事件は、労働保険審査会と東京地裁とで審理されていた極めて特異な事件である。
この事件は、
1 本来、より厚い保護が与えられるべき高齢者などの社会的弱者が、より劣悪な労働条件下で就労せざるをえないことが過労死の原因となった点、
2 労働基準監督署が、社会的に弱者である高齢者労働者を守るために何ら有効な措置をとらないばかりか、劣悪な労働条件下で長年労働することで「労働環境に慣れている」として、労働基準法違反状態を積極的に擁護している点、
3 労災補償制度の理念である「迅速かつ公正な保護」が実現しておらず、この点では、まだ損害賠償制度の方がましであるという点、
において問題を提起している事件である。

1997年5月の労働法学会ミニシンポジウムでは、本事件の損害賠償請求事件東京地裁判決を題材に、行政認定上の問題及び予防措置をめぐる問題について検討がなされている(日本労働法学会誌90号・1997年参照)。

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