日本スポーツ法学会第30回大会基調講演-スポーツ事故補償の新たな制度に向けて【日本スポーツ法学会年報30号】

 スポーツ事故の予防と補償の問題については、ライフワークの一つとして35年間取り組んできました。

 出発点の疑問は2つ。
 1つは、なぜ同じ事故が繰り返されるのか?
 もう1つは、高度後遺障害を負った被災者の生活の大変さ。

 「スポーツ活動中の競技者間の事故については、競技団体のルールに任せて、裁判所は口を出すな。」という競技団体関係者の主張に対して、2022年、他の研究者・若手弁護士と共同で、競技者間事故についての競技者、競技団体に求められる予防の責務、競技規則と法の関係を明らかにした「スポーツ事故の法的責任と予防-競技者間事故の判例分析と補償の在り方」(道和書院)を出版しました。

 2012年から日本スポーツ振興センター(JSC)「学校災害防止調査研究委員会・スポーツ事故防止対策協議会」委員として、スポーツ庁とJSCに厳しい意見と提言を言い続けています。

 しかし、スポーツ庁もJSCも立ち上がりません。「学校災害防止調査研究委員会・スポーツ事故防止対策協議会」委員有志は、「それではやってみせよう。」と、2017年からは「これで防げる学校体育・スポーツ事故」シンポジウムを実施しました。

 2023年には、この企画を担ったメンバーで、「安全に注意しよう」で終わっている現在のスポーツ庁のガイドラインに対して、「学校災害共済給付制度事故データベース」(JSC)を分析して、科学的視点で具体的な事故予防の提言をする「これで防げる!学校体育・スポーツ事故-科学的視点で考える実践へのヒント」(中央法規出版)を世に送りました。

 

 スポーツ事故で高度後遺障害負った被災者への補償は、時代と共に改善されていきました。これまでも何度か「補償の問題」についても意見を述べてきましたが、2022年12月、慶應義塾大学で開催された日本スポーツ法学会第30回大会で「スポーツ事故補償の新たな制度に向けて」のテーマで基調報告をし(年報30号掲載)、35年間考えてきたことをまとめて提言しました。

 日本スポーツ法学会年報30号(2023年12月9日)は、「スポーツ事故補償のあり方を考える」の特集です。2022年12月10日に慶應義塾大学で開催された日本スポーツ法学会第30回大会で討議をされた内容をまとめたものです。

 結論は、
(1) 現在の学校災害共済給付制度もスポーツ安全保険制度もなかなかすぐれた制度であるが、よりよい制度にするためには、いくつかの点で改善が必要なこと、
(2) 当事者の負担の少ない紛争解決制度は創設すべきこと、
(3) 予防に結びつける新たな制度を創設すべきこと、
の3点です。

 よりよい、スポーツ事故補償制度の一助になることを願っています。