地公災基金審査会制度の問題点と制度改革の提案【労働者の権利208、1995年】


地方公務員の災害補償制度は、かつては、労働基準法が直接適用されていましたが、1967年、地方公務員独自の災害補償制度として、地方公務員災害補償法が成立しました。
地方公務員災害補償法の下では、民間労働者の場合に労働基準監督署長が行う業務上外認定、障害等級認定等は、地公災基金各支部長が行います。また、民間労働者においては、労働基準監督署長の行う処分に対する不服申し立て続きとして、各都道府県労働者災害補償保険審査官に対する審査請求手続、さらに、労働保険審査会に対する再審査請求手続という二段階の行政不服審査請求手続がありますが、地方公務員の場合には地公災基金各支部審査会に対する審査請求手続と地公災基金本部審査会に対する再審査請求手続とが用意されています。
これまでも、地方公務員災害補償制度の行政不服審査請求手続が十分に機能していないのではないかとの批判は少なく、地公災基金本部審査会がまとめている「審査会裁決集(第1集~第7集)」から、本部審査会の最初の裁決が出された1970年から1992年までの23年間の435裁決及び公刊集に掲載された地公災関係行政訴訟判例から、その実態と問題点を検討しました。
地公災基金本部審査会裁決の概要及び地公災基金に関する判例を紹介し、他の行政不服審査手続における救済率との比較を検討し、税務署寄りとの批判も少なくない異議手続、国税不服審判所に対する審査請求手続と比較しても、地公災基金の行政不服審査請求手続における救済率が異常に低いです。
地方公務員災害補償制度においては、行政訴訟の救済率は、行政不服審査請求手続の救済率をはるかに上回り、本部審査会の救済率の9~17倍に至っています。
このように、地方公務員災害補償制度における行政不服審査請求手続の救済率の低さは、原処分の正当性に起因するのではなく、行政不服審査請求手続が救済機能を喪失していることに原因があるというべきであり、地方公務員災害補償制度が救済機能を回復するには、
① 名実ともに原処分庁から独立した行政不服審査機関の確立
② 民主的な審査請求手続の確立
③ 審査会裁決前の行政訴訟の提訴
を提言しました。
従前、地方公務員で組織された労働組合は、一部を除き労働災害、職業病の問題に十分な取り組みをしてきたとは言いがたく、労働委員会制度と地方公務員災害補償制度とを比較すると、制度の民主化への労働組合の努力の有無が制度の実態に与える影響の大きさを痛感せざるを得ません。行政訴訟までいかなければ権利救済されない等という地方公務員の労災職業病の異常な実態を早期に改善するために関係労働組合の取り組みの強化が必要であると指摘しています。